漫画のおはなし作りの教本はこれ一冊で充分。
…とは言わないけれど、かなり本質をついた(かつ実用的な)作話教本であることは間違いない。

割とマイナーっぽいが、名著だ。
 

 

「ドラマが大事だと言われても…ドラマって何?」

漫画教本は何かと「具体的なテクニック」の紹介で終始しがちだ。

この本は違う。

マンガ表現とは何か?なぜドラマが必要?ドラマとは何か?

「ドラマ」「エピソード」「キャラクター」といったキーワードは抽象的であり、
イマイチ何なのかつかめない方も多いのではないだろうか?

「ストーリーの作り方」的な書籍において前提として語られがちな「ドラマ」や「テーマ」について、
なぜ?なぜ?と問いかけ、読者を置いてけぼりにしない。

ドラマとは何か?エピソードとは何か?
今学ぼうとしていることは、マンガにおいてどのような位置づけなのか?

本書はまずそこを丁寧に解説してある。

 

抽象的な(重要な)キーワードを、映画を例にとって具体的に解説

本書のタイトル通りなのだが、とっつきにくい「ドラマ」や「エピソード」について、
有名な映画を取り上げて非常に分かりやすく解説してある。

少し長いが、以下に本文より抜粋する。

■マンガの「中身」の部品
俳優の容姿や演技は、マンガでいえば「絵」に相当します。『ローマの休日』でのヘプバーンの容姿や演技は、高い画力を持ったマンガ家が、すばらしい絵を入れたようなものです。しかし、絵というのは、マンガのほんの一部分。いってみれば「皮」でしかありません。皆さんに知ってほしいのは、「皮」の下にある「中身」についてです。[図1]。
マンガの「中身」とは、すなわち「キャラクターの中身」でもあります。キャラクターの中身とは、そのキャラクターの性格や特徴、能力などのことです。それらを総合したものが読者の目に魅力的に映るかどうかで、キャラクターを好きになってもらえるかどうかが決まります。
その、大切な「キャラクターの中身」を表現するために用いる道具が「ストーリー」です。そして、ストーリーは「ドラマ」と「エピソード」と「舞台設定」という部品からできています。
それらのうち、最も根本的な部品が「ドラマ」です。ストーリーをマンガの「骨」に例えれば、ドラマは、その中心となって全体を支える「背骨」にあたります。背骨なしに、ストーリーは形を成しません。マンガを描いていて、ストーリーがなかなかまとまらないとき、その原因は、ほぼ100%、自分がどんなドラマを描こうとしているのかを見失っていることにあります。

このあとに要点が箇条書きでまとめてある。

非常に論理的、かつ的確な例えを用いていて、明快だ。

紹介してある映画を観ずに読んでも良書であることには変わりないが、
映画を一度観てから読めばかなり理解が進むだろう。

 

とにかく例え話が分かりやすい。

 

私にとって特に役立ったのは、第4章の「過去の作品から形式を借りる」ことについての話だ。
ここでもとにかく例え話がうまい。

「ラーメン」と「成長もの」を比べて、

★どんなラーメンでも「作り方」は同じ

  1. ダシをとってスープを作り
  2. メンをゆでて
  3. 完成

★どんな「成長もの」でも「形」は同じ

  1. ライバルに勝てず
  2. 努力して
  3. 勝利

…という例え話がされていて、「なるほど」と納得してしまった。

 

まとめ

なお本書は以下の5章で構成されている。

  • 第0章 マンガ家になるために描くマンガ
  • 第1章 マンガの表現の仕組み
  • 第2章 ネームの仕組み
  • 第3章 キャラクターを作る
  • 第4章 ストーリーと演出

この記事では、第1章の一部分を中心に取り上げた。

また本書は具体的なテクニックについても言及されていて、ただの「概論」的な本ではない。

ネームについて、キャラクター作成について、ストーリー・演出について、
それぞれかなり「使える」テクニックが紹介されているので、ぜひ参照してみてほしい。

 

 

柴太